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たばこの依存症



1. ニコチン依存

ニコチンには依存性があり、タバコ使用時に依存を生じる主たる原因となっている。ニコチンは中枢神経系のうちドパミンを介する脳内報酬系に作用するとされ、とくにノルアドレナリン、セロトニン、ドパミン、アセチルコリン、γ-アミノ酪酸、グルタミン酸塩など脳内神経伝達物質の分泌がニコチン摂取で増加することや、モノアミンオキシダーゼBの活性に影響を与えることが示唆されている62)
1980年に米国精神医学会によって、ニコチン依存は精神疾患の診断分類としてとりあげられた。ニコチンは、口腔内粘膜や皮膚からも吸収される極めて吸収の良い物質で,煙を吸い込んで数秒以内に脳血管障壁を通過して脳細胞に達する。定期的にニコチン摂取を繰り返すと,ある時期以降には脳細胞は喫煙してニコチンを吸収することでようやく以前と同レベルの活動を維持するようになる。これが「ニコチン中毒」「ニコチン依存」と呼ばれている状態である。

ニコチンは吸収が速く,体内から消失するのも速いため,常習喫煙者では喫煙後30分程度でニコチン切れ症状を生じ「次の1本」の願望を生じるようになる。ニコチン依存を有する喫煙者はニコチンの血中濃度をタバコを吸う頻度と深さで調節し、最適なニコチン血中濃度による精神的効果を得るとともに、ニコチン離脱症状を避けている。
ニコチン依存は、(1)周りからの影響をうけて喫煙を開始する(2)ニコチンのドパミン系への直接影響によって喫煙を続ける(3)離脱症状軽減のために喫煙を続けざるを得ないとの3段階を経て喫煙開始後数年で形成されると考えられてきた。成人では喫煙後5年から10年でこうした状況が形成され、その結果喫煙者はほぼ毎日喫煙するようになる。未成年に対しての調査では喫煙開始後急激にニコチン依存が形成される場合が多いことが明らかになり、必ずしもこの3段階を順番に経るともいえないと考えられる。63)64)
ニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS、Tobacco Dependence Screener)は禁煙治療保険診療におけるニコチン依存症診断基準として使用されており、心理的依存も含めたニコチン依存症の診断に有用である(表2)。ニコチン依存症の診断基準として、TDSのスコア5点以上が用いられているが、TDSのスコアはICD-10などの診断基準によるニコチン依存症の重症度の判定結果とよく相関すると報告されている66)
そのため、TDSのスコアの高低はニコチン依存症の程度の目安として用いることができる。喫煙本数と起床後最初に喫煙するまでの時間は、ファーガストロームらによるニコチン依存度指数(Fagerstrom Test for Nicotine Dependence, FTND)67)の項目として用いられているが、FTNDの6項目の中でも唾液中のコチニン濃度や呼気一酸化炭素濃度との相関が特に強いことがわかっており、診療現場では「起床後何分でタバコを吸いますか」という簡単な質問で身体的ニコチン依存の程度を推定することが広く行われている。

表2:ニコチン依存症のスクリーニングテスト「TDS」
設問内容 はい(1点) いいえ(0点)
問1:自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。
問2:禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。
問3:禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。
問4:禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか。
(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加)
問5:問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。
問6:重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。
問7:タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問8:タバコのために自分に精神的問題(注)が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問9:自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。
問10:タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。
注)禁煙や本数を減らした時に出現する離脱症状(いわゆる禁断症状)ではなく、喫煙することによって神経質になったり、不安や抑うつなどの症状が出現している状態
禁煙治療のための標準手順書第8.1版65)より引用より引用

2. 心理的依存

いつも喫煙していた場面、他人の喫煙シーン、困難に遭遇したときなどに喫煙要求が高まる状態をさすもので、喫煙で良いことがあった体験の積み重ねが、心理的な条件反射を強化する。経験や記憶によるところが大きく、喫煙年数が長いほど強固である。
この心理的依存によって一旦禁煙したものの、さまざまなストレス場面において容易に喫煙が再開されることが多く観察され、心理的依存への対処には、さまざまな行動変容理論の応用が必要となる。